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福岡家庭裁判所小倉支部 昭和45年(少)810号 決定 1970年6月29日

少年 R・K(昭二五・三・一生)

主文

本件収容継続の申請を却下する。

理由

大分少年院長からの本件収容継続申請の要旨は、

「一、本人は、昭和四四年一月一六日福岡家庭裁判所小倉支部において中等少年院送致の決定を受け、同年一月二一日人吉農芸学院に入院し、同年九月二九日処遇上の考慮から大分少年院に移送され、昭和四五年二月二八日をもつて満年齢に達し、少年院法第一一条第一項の規定により収容期間が満了となるものであつた。

しかし、過去の院内成績が不良であつたため、当時処遇の最高段階に達しておらず、かつ本人の犯罪的傾向が未だ矯正されていなかつたため、少年院から退院させることは不適当と認められたので、昭和四五年二月一九日福岡家庭裁判所小倉支部宛に、五ヶ月程度収容を継続すべき旨の決定の申請をしたところ、同年三月一三日「本人を昭和四五年三月一日より四ヶ月間中等少年院に継続して収容する」との同支部の決定に基づき、引続き大分少年院に継続して収容し、矯正教育を施しているが、同年六月三〇日をもつて少年院法第一一条第八項の規定により、収容期間が満了となるものである。

ところで本人は、継続収容の決定を受けた直後は一時立直りの意欲が見受けられたが、同年四月に入り再び生活が乱れはじめ、四月一五日喫煙事故で謹慎七日間執行猶予二ヶ月の懲戒処分を受けこの反則のため、進級が予定していた時期より半月遅れ、五月一六日付で処遇の最高段階に達し、五月二一日退院準備教育を兼ねて比較的開放された蓄産科へ転科させられたが、更に、六月一三日実科場より帰寮の際、本人が塵捨場より煙草の吸殼一本を拾い寮舎に持ち込み隠匿し、同月一五日午前五時五分頃病舎寮三室(蓄産科生の居室)で、本人、A、Bの三名で喫煙しているところを当直教官に発見され、この反則行為で謹慎七日間の懲戒処分を受け、蓄産科を免除される処分を受けた。

二、このように、退院日も切迫して最も自覚のある生活が望まれる時期に至つておりながら、院内の規則を無視し、自己の欲求に従つて衝動的、短絡的に行動する等、健全な意欲の持続性及び性格の改善は十分ではなく、本名の犯罪的傾向は未だ退院させるに適するまでには矯正されておらず、このまま退院させることは短期間での再非行が予測される。

従つて、更に一ヶ月程度の再度の収容継続決定の申請をする。」というにある。

ところで本件は再度の収容継続決定の申請に係るものであるから先ずこの点につき考えてみるに、少年院法第一一条は、保護処分が本来再非行のおそれが消滅するまで性格、環境両面につき矯正教育を施すことを目的とするに鑑み、その保護目的達成のためには同法所定の二三歳に達するまでは回数を問わず繰り返し収容継続を許す趣旨の規定であると解するのが相当であるが、収容継続については、保護処分の教育的性格に照し、仮令犯罪的傾向が未矯正等の状態にあつても、その犯罪的傾向の性質、程度に過去の在院成績ないし本人の資質、年令等諸般の事情を総合することにより収容継続の矯正効果に多くを期待できない状態にある場合にあつては、その必要性を欠くものとして許されるべきでなく、退院後の犯罪行動に対しては当然のこととして刑事処分を甘受さすべきものと解するところ、本人に対する少年調査記録によれば、前記申請の要旨一、の事実及び本人が六月一五日の喫煙事故等により降級の処分を受け、現に一級の下の処遇段階にあることが認められるのであるが、同時に本人は満期退院予定日を前にした再度の喫煙事故に対し一応反省悔悟の情を示し、その家族、近親者においても本人を迎え入れる充分の態勢を整えて一日も早い退院を待ち望んでいることが認められる。

しかして叙上認定の事実によれば、本人は満期退院を目前にし乍ら再度の規律違反を敢えてする等犯罪的傾向の充分な矯正未だしの感を払拭できず、従つて資質矯正の可能性の存在を前提とした上、本人の収容を更に若干継続して個別の退院準備教育を施し、もつてその犯罪傾向に充分の教育、矯正を加えて、退院後における自制心ある生活態度の養成に資するべきであるとする考えも傾聴に価するものではあるが、反面、本人の退院後の環境面にはなんらの問題点がないことに加えて、資質矯正の可能性につき、少年院収容が四ヶ月間の収容継続期間を入れて既に一年五月余の長きに及んでおり、その間それ相当の矯正教育の効果を窺知できるところ、本人の資質、年齢等諸般の事情に徴し、これ以上の収容継続がその矯正教育効果において更に多くのものを期待できるとは到底認められず、従つてまたその主たる意義において共同規律違反者との処遇上の均衡ないし他の在院者に対する懲戒警告の配慮の範囲を遠くでないと認められるのであつて、前記犯罪傾向未矯正の事情を考慮してもなお本件は収容継続のための充分な必要性ある場合とは認め難いのである。

してみれば大分少年院長からの本件収容継続決定の申請は結局理由なきものとして却下を免れないことに帰するので、主文のとおり決定する。

(裁判官 鍋山健)

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